2021.03.18

防災を楽しく!――プラス・アーツに見る防災の新しい考え方①

防災を考えていくためのヒント

防災が大切なことは誰でも頭ではわかっているはずです。でも、どこから何を始めたらいいのか、改めて考えてみるとよくわからない。あるいは、マンションの理事会で防災担当に選ばれたのだけれど、一体何をしたらよいのだろう。きっとそんな人も多いことでしょう。

そこで今回お話を伺いに行ったのが、NPO法人プラス・アーツ。楽しみながら防災の知恵や技を学ぶ新しいカタチの防災訓練や防災啓発の取り組み――「防災は、楽しい。」を合言葉に、さまざまなプロジェクトを展開しているNPO法人です。小中学生時代に経験した防災訓練を思い出してみると、つまらない、大変そうというイメージしか残ってないかもしれません。でも、それとは一線を画すユニークな活動で、これからの防災を考えていくためのヒントがいっぱいありそうなのです。東京事務所のチーフスタッフ・服酉信吾さんにお話を伺いました。

きっかけは阪神淡路大震災10年後のある出来事

プラス・アーツ東京事務所チーフスタッフの服酉信吾さん。団体職員、NPO法人、民間企業と渡り歩いて2016年にプラス・アーツに入社。現在は主に商業施設での防災イベントに携わっている。「まったくやったことのない仕組みづくりは、毎回考えることばかりですが、やりがいや面白みがいっぱいあります」。

何回かに分けて紹介しますが、まずはそもそもプラス・アーツの活動は何を発端に始まったのか。「防災を楽しく!」という思いも、それと密接に関わって生まれています。

そもそもの始まりは2005年。当時大阪でまちづくりの企画プロデュース会社「iop都市文化創造研究所」を設立していた現プラス・アーツの代表理事・永田宏和さんに、神戸市からあるプロジェクトが持ちかけられます。阪神・淡路大震災からちょうど10年。当時神戸市職員が抱いていた課題は「どうしたら被災時の思いをちゃんと継承し、市民一人ひとりの今後の防災に反映してもらえるだろうか」ということでした。そして、実はその思いを強くする、わりとショッキングな出来事があったのです。

服酉さん「阪神・淡路大震災の記憶が風化することのないように、10周年のその年、神戸市は防災ハザードマップを作成して市民に配布したんです。ところが配布の翌日、それが大量に捨てられていたことがわかったのです。みんなあれだけ辛い思いを経験したはずなのになぜ、と職員はかなりショックを受けたと言います」

被災者にきいたキモチの防災マニュアル『地震イツモノート』

「モシモ」ではなく「イツモ」。阪神・淡路大震災の被災者へのヒアリングをまとめ、2007年に出版された『地震イツモノート』。プラス・アーツのホームページからも購入可能だ。

そこで永田さんたちがまず行ったことは、ボランティアの学生たちとも連携したチームを作り、改めてなるべく多くの被災者の人たちから生の声を聞くことでした。「あの時、そこにいた人たちは何を思い、何をしたのか」。アンケートやヒアリングをして167人の被災者の声を集め、それをちょっと変わった防災マニュアル『地震イツモノート』としてまとめ、出版しました。

服酉さん「よく家庭に届く防災系の冊子などは、すごく情報量があるんですけど、逆に消化しきれないということがありますね。いかに正しいことが書いてあってもそれではいけない。何をどのように伝えるか。そこで代表の永田が仕事をお願いしたのがイラストレーターの寄藤文平さんでした」

あの時現地にいた方々が「どんなことを感じ」「何が必要だったのか」、体験者のキモチを知ることが一番の備えになる。それが共感を持ってパッと見で伝わるには、寄藤さんのイラストがぴったりだと考えたのです。実際に本を開いてみると寄藤さんのイラストが生かされた誌面は、見やすく、わかりやすく、どこかユニーク。いろんな声やその時の状況がひと目で伝わってくる感じです。

服酉さん「改めてまとめてみると、実際に体験した被災者の人しかわからないことや気持ちがたくさんあります。たとえば、インテリアは落ちるのではなくて飛んでくる、吊るした照明は振り子のようになって落ちるとか。家の中が洗濯機にかけられたようになって割れた窓ガラスや食器などで足の踏み場もなくなる。そんな状況の真っ暗な中で出口を見つけるようとして懐中電灯で前を照らすと、足元が見えないので危険だとか。だからランタンみたいな光が役に立つとか」

たとえば、こんな感じ。『地震イツモノート』の一部は、地震イツモ.com状にアーカイブされていて、A4シートでダウンロードすることもできる。

自分たちの身は自分たちで守る、そのための知恵

また、あれだけ大きな被害となると直後は救助隊や消防団もまったく人手が足りない状況になります。誰かが何とかしてくれるのを待つのではなく、自分で考え、自分でできることはできる限りする。実際に近隣住民が助け合うことで救った命も多かったという報告もあります。

服酉さん「倒れた建物に押し潰されそうになっている人を助け出すために、車のジャッキが役立つ。負傷した人を安全な場所に移送しなくてはならないのだけど担架なんかない。そういう時は戸板や毛布に乗せて運ぶ。あるいは消防車の消化活動を待っている暇はないから、消化器くらいは子どもでも最低限使えるようにしておいたほうがいいとか……。そこには、身の回りにあるものはいざというときこのように使ったらいいとか、最低限こういう機器は使えるようにしておこうというような情報がいっぱいあったんですね」

この本には実際に被災した人たちのそのような知恵がいっぱい詰まっています。と同時に、いざというとき、「自分たちの身は自分たちで守る」ことができるようにしていくことが大事だというメッセージが込められています。「自分の身は」でなく、「自分たちの身は」、一人でではなく、お互いに助け合ってというところがポイントです。そしてそのための備えは「モシモ」ではなく、ライフスタイルの中に自然に横たわる「イツモ」であってほしい。だからこそ、『地震イツモノート』と名付けられたのです。

そこにまとめられた情報は、同時にプログラム化されて、小さな子どもでも遊べるようなユニークな防災イベント「イザ! カエルキャラバン!」が誕生します。その内容と楽しさについてはまた次回!

プラス・アーツでは地震ISUMOのイラストを用いた防災啓発グッズも開発。写真は地震イツモキット。同社のホームページの防災グッズショップからも購入可能。

※『地震イツモノート』の<地震直後>や<避難生活>の章を公開したアーカイブサイト、地震イツモ.comがあるので、気になる方はぜひご覧になってください。http://www.jishin-itsumo.com/

次回はユニークな防災イベント『イザ!キャラバン!』を中心に、プラス・アーツならではのアイデアが詰まった数々の取り組みについてご紹介します。

連載第2回は こちら

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