2021.10.13

「下の部屋で水漏れ発生。加害者になってしまった?」弁護士が教える!マンション住民のための法律講座&相談 第5回

イラスト:おくむらゆきな

いざというときに役に立つ法律知識を学ぶ「マンション住民のための法律講座&相談」。教えていただくのはマンションの法律問題に詳しい弁護士の田村 裕樹先生です。

第5回は、「水漏れ」。ある日突然事件が起きて、大問題に発展してしまうこともあるこのトラブルについて、法律から見た解釈と対応策についてうかがいます。

今回の相談

「管理会社から『下の部屋で漏水している』と連絡がきました。まったく心当たりがありませんでしたが、調査の結果、私の部屋のキッチン下の配管から水が漏れていることが判明。下の部屋の人から『壁が汚れたので、取り替えが必要』と言われてしまいました。こちらが弁償することになるのでしょうか?」(兵庫県 H・Aさん)

原因はどこにある?

「騒音」や「ゴミ出し」などマンショントラブルの多くは住民の行為によって起こり、住民同士の人間関係によって大きくも小さくもなるもの。しかし、建物自体が原因のトラブルは、自分が何もしていなくても起きることがあります。

田村先生「『漏水』──『水漏れ』ですね。建物の不具合にまつわる問題のなかではよくあるトラブルです。

まず問題になるのは、原因が『専有部分』にあるのか、それとも『共用部分』にあるのかという点です。

『専有部分』と『共用部分』については、第2回『廊下に物を置いている人がいて片付けてくれない』でお話ししましたね。簡単におさらいしておくと、分譲マンションのうち独立した所有権を持っているところ──だいたいお部屋内です──が『専有部分』、それ以外の、たとえば廊下やエントランスなどが『共用部分』です。」

「水漏れ」の損害は誰の責任?

なぜ水漏れの原因になったところが問題になるのでしょうか?

田村先生「『水漏れによる被害の賠償』という問題があるからです。

原則としては、『専有部分』に水漏れの原因があった場合は、被害にあった下の部屋の人と上の部屋の人との間の問題ということになります。つまり、上の階の人が賠償をしなければならない可能性があります。

一方、『共用部分』に原因があった場合は、管理組合の管理責任ということになって、住民には賠償責任は発生しません。ですから、この違いは大問題なのです。

補足ですが、原因が『専有部分』『共用部分』いずれにあった場合でも、そもそも配管の設置工事自体に問題があった、という可能性もあり得ると思います。この場合は、下の部屋への賠償が発生してしまったことに対して、施工者への責任の追及を検討することになるでしょう。」

何もしていないのに損害賠償?

このケースでは、H・Aさんは下の階の方の損害を弁償しなければならないのでしょうか?

田村先生「水漏れの原因や状況によって異なるのではっきりとは言いにくいのですが、キッチン下の配管は『専有部分』に当たりますから、その可能性が高いのではないでしょうか(『管理規約』[マンション全体のルール。マンションごとに定められる]で規定がある場合は別)。

住んでいる人としては、納得できないと感じられるかもしれませんね。『風呂場で水を出しっぱなしにしてしまった』などのような明らかな自分の責任ならともかく、配管の水漏れの場合、『なぜ自分に非があることになるのか?』と思われる気持ちは理解できます。

ただし、感情としては納得できなくても、実際に賠償が発生してしまうことはあり得ます。普段からのメンテナンスやチェックで防げる場合も多いので、まずは『目につかない部分も管理する必要があるのだ』という意識を持っていただければと思います。」

管理会社の役割

「専有部分」の管理は自分の責任になるのですね。ちなみにこのケースだと、請求額はどれくらいになることが多いのでしょうか?

田村先生「それは……下の被害次第ですから、場合によるとしか言えないのです。何万円かもしれないし、下の階がテナントでリフォームが必要になった場合など何百万円ではきかないかもしれない。ここが怖いところです。

漏水の場合、事件発生後の初動がとても大切です。ここで管理会社の役割が重要になるので、簡単に触れておきましょう。トラブルが発生したとき、まず水漏れを止める現場の対応が第一。それから原因を突き止めるのが第二

管理組合が依頼する管理会社がこの作業を行うことになりますが、初動の良し悪しによって、後の状況に差が出ます。現場の対応が遅れればその分被害が大きくなりますし、原因の特定が遅れればそれだけ問題解決が長引きますから。

管理会社の良し悪しは、こういうときに見えてくるものです。住民の方にはなかなかわからないことだと思いますが、役員の方は気に留めておいていただきたいですね。」

もっとも有効な水漏れトラブル対策

では、いつ起きるかわからない水漏れトラブルに対して、対策はあるのでしょうか?

田村先生「水漏れが発生する原因、賠償が発生する場合の金額、ともに千差万別といっていいくらい状況はさまざまです。定期的な設備のメンテナンスなどの対策はもちろんするべきなのですが、起こり得るすべての可能性に対応するのはちょっと無理でしょうね。

したがって、『保険』に加入して賠償額をカバーする、というのがいちばん現実的な対応策だと思います。

『個人賠償責任保険』がこれに該当する保険で、マンションの火災保険の特約として加入することが多いです。個々の契約にもよりますが、こうしたケースのほとんどをカバーしています。

大規模なマンションなどの場合は購入時に加入していることが多いと思いますが、必ずというわけではないので、まずはご自身の入っている火災保険に『個人賠償責任保険』特約がついているかどうかを確認しましょう。

もし特約がついていない場合は、新たに追加しましょう。一人だけで加入するよりもマンション住民全員が同じ保険に加入しているほうがベターですので、管理組合に一括で契約することを提案してみるのもひとつの案だと思います。」

先生の回答まとめ

「『水漏れ』トラブルは、被害に応じて損害賠償が発生する場合がある。『共用部分』が原因ならば管理組合の責任になるが、『専有部分』が原因の場合は過失がなくても部屋の所有者の責任になる可能性がある。トラブルの原因、被害の程度は千差万別で、莫大な賠償額になるケースも。保険でカバーするのが現実的な対処法。」

弁護士が教える!マンション住民のための法律講座&相談シリーズ

第1回「マンション住民が知っておくべき法律基礎知識は」こちら

第2回 「廊下に物を置いている人がいて片付けてくれない」はこちら

第3回「隣の部屋がゴミ屋敷!一体どうする?」はこちら

第4回「何の音? 突然上の階から異様な物音がするようになった!」はこちら

第6回「駐車場に不審な車がとまっている……」はこちら

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

監修:田村裕樹(たむらひろき)/弁護士。京都府出身。東京大学文学部(日本文学)卒。都内出版社にて編集職に従事。一橋大学法科大学院修了。青山学院大学院修士(税法務))修了。東京弁護士会所属(61期)。企業法務、不動産法務、税金に関する法務、知的財産権法務、一般民事法務、家事法務など多岐の分野にわたって活躍。マンション法務に関する造詣も深く、講師経験も多数。マンションに関する著書に『専門士業と考える 弁護士のためのマンション災害対策Q&A』(第一法規株式会社、共編著)、『マンションにおける共同利益背反行為への対応—区分所有法57条 58条 59条 60条の実務』(日本加除出版、共著)がある。

弁護士 田村裕樹:https://tamura-bengoshi.com

その他おすすめの記事

記事ランキング

  1. 1

    元刑事に聞く!マンション空き巣対策〜その2 空き巣が本当に嫌がる防犯テクニック〜

    2021.03.31 防災・防犯
  2. 2

    知らないと損する!補助金でマンション生活をより快適にする方法 第3回〜断熱リフォーム編その3〜

    2021.07.30 暮らし
  3. 3

    食品ロスを減らす食材保存術 <1>100均のベジタブルストッカーがオシャレで優秀

    2021.07.24 暮らし
  4. 4

    カンタン!おうちで楽しむおつまみレシピ 第3回「コンビーフ缶」でおつまみ!①

    2021.04.30 おうちグルメ
  5. 5

    知ってるようで知らない? マンションの謎 〜その3 マンションの水はどこからやってくる?〜

    2021.05.12 マンショントリビア