イラスト:おくむらゆきな

今回のご老公からの一言

「理事長さんが袖の下をもらいながら何十年も続けているという所も多かったですね。」

「マンション購入」は、多くの人にとって人生で1度か2度の大イベント。そのため、購入のガイドブックや雑誌・WEBの記事も多く出回っていて、「失敗しないためのチェックポイント」も広く知られています。しかし、その人生最大級の買い物の「その後」について、つまり「マンションの維持・管理」については、何か問題が発生するまで、ほとんどの人が無関心なのではないでしょうか?

すでにマンションを所有している人も、これから購入しようと考えている人も、問題発生を未然に防ぐため、あるいは問題発生時に適切に対応できるよう、マンション管理に関心を持つことでより良い管理体制を築いておきたいものです。その際に心強い味方になってもらえるのが「マンション管理士」。マンションの維持・管理で頻発する諸問題に詳しく、第一期の「マンション管理士」として、数多くのマンションのトラブルを解決してきた長尾さんに、お話を伺いました。

理事長や役員が管理会社と癒着するケースも

【編集部】前回までの記事では、「管理会社」が要因となって発生するマンション管理の問題点について伺い、管理会社を管理組合側が上手にコントロールするためには専門家であるマンション管理士の力を借りて、住民(区分所有者)側で行うべきチェックを行い、改善していくべきという流れはわかりました。
ただ、トラブルの要因は、「管理会社」の側だけでなく、「管理組合」や「理事会」側に問題があることも…。3回目となる今回は、管理組合側に問題があるトラブルの例と、それを避けるための対処法を伺いました。

【長尾さん】マンション管理に関して、トラブルの要因が「管理組合」側にあるケースも少なくありません。昔は、マンション管理についての情報も少なく、問題意識や知識を持っている区分所有者も少なかったので、理事長や役員を意欲ある人に長年任せっきりにしていた管理組合も多かった。それが要因となって発生するトラブルもいろいろあります。今は多くのマンション管理組合で、役員の「輪番制」が一般的になっていますが、一昔前までは同じ人がずっと役員を務めるところが多くて、これは弊害が出てしまうんです。理事長さんが、管理会社などから袖の下をもらいながら何十年も続けているという所も少なくなかったですね。

これは20年ぐらいずっと役員が替わっていなかったある都心の古いマンションの例ですが、理事長や理事会の役員が管理会社と癒着していたというケースがありました。そこは戸数が多くて、毎月の管理費や修繕積立金もかなりの金額になります。理事会役員と管理会社が結託することで、理事長以下、役員みんなが袖の下をもらっていたようです。それを、「どうも怪しい」と感じた住民の方たちから、「役員を替えたい」と私に相談が来たんです。そこで、私が理事会に立ち会って、今までの役員さんや管理会社に対して厳しく事実を追求しました。その後、反対派の住民たちがマンションの集会室で住民集会を開こうとしたのですが、理事会がなんだかんだ理由をつけて集会室を貸さないなんていうイザコザまで起こる始末。そうこうしているうちに、袖の下をもらっていた役員の1人がそのマンションから引越しすることになり、役員を辞めるタイミングで「実は(袖の下を)貰ってたんです」と告白したことによって、不正が明らかになったのです。結局、訴訟されたら勝ち目がないということで、その理事長さんも逃げるように引っ越しましたけどね。

他の例ですと、築年数の浅いマンションでも、役員と管理人と管理会社の担当者(フロントマン)が3人で共謀して、管理組合のお金を着服していたということがありました。そんなに大した金額じゃなくて、3人で居酒屋行って飲み会するくらいのお金なんですけどね。「あの人たち3人で、近所の居酒屋でよく飲んでますよ」という話があって、これは癒着があるかなと、私が調べてみたんです。そうしたら、経師屋(注:襖や障子など表具を張る職人)が水道の工事をしたことになっている怪しい領収書が出てきたので、発行元に電話してみたら「うちはそんな仕事していません」と言われたという。
とにかく、マンション管理を一部の人だけに任せっきりにしてしまうと、こういった問題が出てくるんです。こうした業者との癒着や管理組合が管理するお金の横領といった問題に対して、区分所有者の皆さんがもうちょっと興味を持って、チェック機能を働かせるべきだと思いますね。

理事会役員は任期2年&毎年半数改選の「輪番制」がオススメ

【編集部】では、マンション管理組合、区分所有者としては、理事会役員と管理会社の癒着などのトラブルを防ぐために、どのような予防手段を講じればいいんでしょうか?

【長尾さん】まずは、それぞれのマンションで多くの区分所有者に、マンションの維持管理にどんな問題があるか興味を持ってもらう、知ってもらうということが必要でしょうね。それには、マンションで「勉強会」を開いて、多くの住民に参加してもらうのがいいと思います。前回話したように、各地域の行政がマンション管理士を派遣する制度などを持っているので、まず役所に相談してみるといいですよ。
それと、理事長や理事会と管理会社との癒着を防ぐという意味では、理事会の役員は「輪番制」がいいですね。同じ役員が長く続けているマンションは管理会社や業者との癒着など、どうしても弊害が出てしまいますから。それと輪番制のもう一つの長所は、区分所有者に1年か2年、役員を経験してもらうことで「マンションの管理って何をやっているんだろう?」という実態を知る機会を持ってもらえることです。私がよく薦めているのは、輪番制の役員任期を2年にして、毎年半数を改選する方法。例えば、理事会の役員が6人だとすると、次の年に3人は続けて、3人は辞めて、3人新しい人を補充するという形。1年で全員改選すると、新役員は何もわからないまま1年を過ごして、また何も知らない新しい人と入れ替わるという繰り返しになってしまいますから。半数の役員がもう1年続けると、管理組合の運営にも継続性が出てくるんです。

ただ、「輪番制」などの役員選任のルールを変えるには、各マンションの「管理規約」を改正する必要があります。その手順としては、まず、理事会が「管理規約をこう変更する」という「総会議案」を作り、「組合総会」に諮って、組合員総数の4分の3以上の賛成を得なければなりません。そう聞くと難しそうに思えますが、実際には、理事会で決めた議案を組合総会にかければ、ほぼ通ります。
なぜかというと、区分所有者の皆さんのほとんどは総会には出席せずに「委任状」で済ませてしまうからです。そうなると、理事会で決めたことがそのまま議決されます。だから、理事会の役員の間で合意が取れれば、規約の改正もすんなり進められます。逆に、一部の区分所有者が規約を変えたいと要望しても、最初の方でお話したような専横的な理事長や役員たちに理事会を押さえられちゃっていると、思うようには変えられないんです。同じ区分所有者なのに一部の人間の思い通りにされてしまうのは、おかしいって普通は思うでしょう?
だからこそ、輪番制が推奨されるのです。区分所有者それぞれが、もっとマンション管理に参加する意識を持たないと、結果的に自分たち自身が不利益を被ることになるのです。

「専横的な事理長が牛耳る理事会を変えたい」、「輪番制を導入したい」と思ってもノウハウがなくて難しい場合は、専門知識を持ったマンション管理士に相談してもらうといいと思います。区分所有者の有志だけで、これを進めるのは大変だと思いますね。
あと最近では、マンション管理士などの専門家が、第三者としてマンション管理組合の理事長や監事などの役員を務める「第三者管理方式」も増えています。今回話したような管理組合内部のトラブルを起こさないために、また、理事会役員の負担を軽減するために有効な手段だと思います。
私も、自分は区分所有者でもないけれど、顧問契約と同じような形で雇われて理事長を務めているマンションがあるんですよ。最近は区分所有者の高齢化や物件の賃貸化が進んで、役員のなり手がなく、困ってるマンションも増えているので、そういうところに頼まれるんです。他には理事会の監事を務めているマンションもあります。監事の役割は監査ですから、要するに全体的に見てくれということですよね。管理組合が行っている事業の監査と会計監査と。また、それ以外についても、やはり専門家ということで、いろんな相談が持ち込まれますね。
マンション管理士を上手に利用すれば、管理組合の運営もずいぶんクリアでスムーズになると思いますよ。マンション管理で困ったこと、あるいは管理組合や管理会社に問題があってなんとかしたいと思っている住民の方々など、まずは一度、気軽に相談してみてください。必ず解決の糸口が見つかります。

お話を聞いた方:長尾 英俊 株式会社 ケア・ジャパン代表取締役。マンション管理士(東京都マンション管理士会所属、元城北支部長)、宅地建物取引士。また、マンション建て替えコンサルタントとして、平成19年度国土交通大臣賞受賞。2001(平成13)年に実施された第一回のマンション管理士試験で資格を取得した、経験豊富なスペシャリスト。管理会社とのトラブルや管理費等滞納問題、大規模修繕工事コンサルタント、建替え(自主再建)など、幅広く活躍中。

<マンション管理士とは?>マンション管理士試験の合格とその後の登録が求められる国家資格。マンションの管理に関して、管理組合や区分所有者からの相談に応じ、管理組合の運営、管理規約の改正や長期修繕計画の策定など、マンションの維持・管理に関する幅広い問題について解決を支援する総合コンサルタント。マンション管理士登録者は全国で約2万5千人(令和元年)。

「マンション管理界のご老公がズバリ直言!〜マンション管理のダークサイドにご用心!」シリーズ

「第1回 その管理費、ムダに多く払っていませんか?」はこちら

「第2回 管理会社に『このマンションの管理組合は手ごわい』と感じさせれば勝ち!」はこちら

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