2021.09.28

「何の音? 突然上の階から異様な物音がするようになった!」弁護士が教える!マンション住民のための法律講座&相談 第4回

イラスト:おくむらゆきな

いざというときに役に立つ法律知識を学ぶ「マンション住民のための法律講座&相談」。教えていただくのはマンションの法律問題に詳しい弁護士の田村 裕樹先生です。第4回は、「騒音トラブル」。集合住宅に付きものとも言えるこの問題について、法律から見た解釈と対応策についてうかがいます。

今回の相談

「2年前に購入。部屋には満足していますが、少し前から上の部屋で変な音がするようになりました。かなり頻繁に“ゴッ、ゴッ”という何か物をぶつけるような音がします。新しい住人が引っ越してきたらしいのですが、上の階の人とは付き合いがなく、はっきりしたことはわかりません。深夜に大きい音がして目が覚めてしまったこともあります。どうすればよいでしょうか」(東京都 F・Sさん)

マンションの定番トラブル「騒音問題」

騒音問題は、マンションで起きるトラブルの中でも最も多いもののひとつ。被害にあう立場になることも、人に被害を与えてしまう立場になることもあり得る、マンション住人誰もが無関係ではいられない問題です。

田村先生「騒音トラブルは本当に多いですね。この場合は、前にお話しした『廊下を物置化』『ゴミ屋敷』問題と少し争われ方が違ってきます。

こうした生活音に関する騒音問題は、主として騒音の発生源となる住民(加害者)と、その騒音で被害を受けた住民(被害者)間の問題として争われることが多いのです。

これは、裁判上は、住民間の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)あるいは人格権に基づく差止請求などの成否として争われます。

ゴミ屋敷問題などが、個人ではなく管理組合が『区分所有法』における『共同利益背反行為』を問題にするのと、大きく異なります。」

※『区分所有法』、『共同利益背反行為』については第2回第3回参照

騒音トラブルは相手と自分の1対1

その騒音がたくさんの人の迷惑になっていても、『共同利益背反行為』、つまり管理組合が扱うマンション全体の問題にはならないのでしょうか?

田村先生「騒音の問題が管理組合の問題にまったくならないわけではありません。おっしゃるように、マンション全体の騒音問題となっている場合には、管理組合がその騒音を発生させる行為の差止請求をするなどが考えられます(区分所有法57条1項)。たとえばマンション内のテナントが騒音を発生させ、マンション全体の騒音として問題になった場合などです。

このケースでは、騒音被害を主張しているのはひとまず相談者のみですので、騒音の発生元と思われる上の階の住民との間で争われる、つまり1対1の問題になるでしょう。」

迷惑行為を認定する判断基準は?

では、この場合の「騒音が迷惑かどうか」は、法律的にはどのように判断されるのでしょうか?

田村先生「『受忍限度』という概念が適用されます。『受忍限度』というのは、そのまま読めば、「我慢すべき限度」。わかりやすく言えば、『社会生活において、ふつうに我慢すべき程度』と言えます。この受忍限度の範囲を超えれば不法行為、超えていなければ不法行為ではない、ということになります。

ここで重要なのは、『騒音ゼロがふつうではない』ということ。生活や仕事など、人間活動にはある程度の音の発生が避けられません。必要な音の発生は認めるべきです。

一方で、必要だからと言って、どんな大音量も許されるわけではありません。その騒音が聞こえてしまう人に対する配慮は当然必要です。

そのため、一般的に裁判では受忍限度を、音を出す必要性とその程度を、被害を受ける者の不利益と見比べて、その他さまざまな事情を加味して限度を超えているかいないかを決めています。

ところで、騒音については、『騒音規制法』が具体的に『デシベル』という音の単位で上限を規制しています。しかし、これは工場などの規制で、生活騒音に関する規制ではありません。

一方、騒音規制法や各地方自治体の条例が提示する騒音の基準(おおむね40~60デシベル)は、生活騒音についても決め手ではないものの、ひとつの根拠にはなるでしょう。」

騒音トラブルのむずかしさ

ちなみに40デシベルは「図書館内の音」くらいとされているようです。案外厳しい基準なので、騒音が「受忍限度」を超えていると法的に認めてもらうのはむずかしくないように思えますが?

田村先生「いいえ、実は騒音が受忍限度を超えることを裁判所に認めてもらうのはとてもむずかしいんです。騒音問題のむずかしいところは、それが『いつ』『どこから』『どこにおいて』『何デシベルだったのか』などがわからないといけない、ということです。『こんな音がしてうるさかった』と言うだけでは、裁判での証明にはならないのです。

工場みたいに毎日同じように音を出しているわけではないから、いつ音がするかもわからないし、毎回同じ大きさの音が出るわけでもありません。つまり再現性がないんです。また、その音の発生源がどこなのかも簡単には特定できません。録音して提出することができなくはありませんが、確実性がなく、コストもかかります。マンション内の生活音のトラブルを法的に解決するのは、相当むずかしいですよ。

かりに証拠を揃えて裁判で勝ったとしても、それを実際にどう執行できるのかは悩ましいです。さらに、同じ住民同士なので人間関係のこじれが残ってしまいますし、満足できる結果になるかは分かりません。いきなり法的な解決を求めるより、まずは話合いの機会を持ったほうがよいのではないでしょうか。1対1だと感情的になってしまうこともあるので、管理組合などの第三者を通してご自身の状況と希望を上の階の方に伝えるのもよいでしょう。」

先生の回答のまとめ

「上の部屋の騒音は、自分と上の部屋の住人『1対1』の問題になる。法的には『受忍限度』を超えるかどうかが争点。具体的に何『デシベル』の騒音なのかは一つの目安に過ぎない。騒音トラブルは証明がむずかしく、法的手段がよい結果に結びつかない場合もあるので、まずは第三者を通じて話し合いによる解決を探るべき。」

弁護士が教える!マンション住民のための法律講座&相談シリーズ

第1回 「マンション住民が知っておくべき法律基礎知識」はこちら

第2回 「廊下に物を置いている人がいて片付けてくれない」はこちら

第3回「隣の部屋がゴミ屋敷!一体どうする?」はこちら

監修:田村裕樹(たむらひろき)/弁護士。京都府出身。東京大学文学部(日本文学)卒。都内出版社にて編集職に従事。一橋大学法科大学院修了。青山学院大学院修士(税法務))修了。東京弁護士会所属(61期)。企業法務、不動産法務、税金に関する法務、知的財産権法務、一般民事法務、家事法務など多岐の分野にわたって活躍。マンション法務に関する造詣も深く、講師経験も多数。マンションに関する著書に『専門士業と考える 弁護士のためのマンション災害対策Q&A』(第一法規株式会社、共編著)、『マンションにおける共同利益背反行為への対応—区分所有法57条 58条 59条 60条の実務』(日本加除出版、共著)がある。

弁護士 田村裕樹:https://tamura-bengoshi.com

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